アメリカ国籍のかたが、日本で住んでいて日本での税務申告を忘れた場合どうするか

アメリカ国籍のかたが、日本で住んでいて日本での税務申告を忘れた場合どうするか
よく忘れていましたどうしたらいいですか?というご相談があります。
まず最初に
「日本で何を申告するか」+「米国で何を維持するか」+「日米条約・二重課税対策」
この3点を毎回きっちり整理するのがポイントです。
税理士目線で、実務上のチェックポイントをリストアップします。
1. そもそも「日本の居住者」かどうかの判定
アメリカ人でも、日本の居住者になると全世界所得課税になります。
- 日本の「居住者/非居住者」判定
- 1年以上の滞在見込み、生活の本拠(住所)が日本にあるか
- 家族・勤務先・住居・生活実態から総合判定
- 居住者となれば:全世界所得を日本に申告(ただし外国税額控除などで調整)
- 非居住者なら:日本源泉所得のみ申告(給与・報酬・不動産など日本国内源泉)
👉 最初に
「そのアメリカ人は居住者・非居住者・短期滞在(183日以内)」のどれかを
日本法ベースで整理しておくのが必須です。
2. アメリカ側のステータスの確認(Citizen/Green Card)
アメリカ人は、市民権・グリーンカード保有で原則全世界所得課税されます。
- 米国側では Form 1040 提出義務が原則継続
- 日本で居住者となっても、米国の申告義務がなくなるわけではない
- 米国側では
- Foreign Earned Income Exclusion(FEIE)
- Foreign Tax Credit(FTC)
等で調整してくるケースが多い
👉 日本側で申告作業をする際も、
米国側の申告内容・方針(税理士の有無)を必ずヒアリングしておくと安全です。
3. 日米租税条約の確認(特に給与・役員報酬・利子配当など)
代表的な論点だけ:
- 給与所得(日本勤務の米国人)
- 183日ルール:
短期滞在・給与負担者・給与支払地などの条件で、
日本で課税されないケースもある - しかし実務上は「日本法人から給与支給&日本勤務」の場合、日本源泉として課税されるケースがほとんど
- 183日ルール:
- 配当・利子・ロイヤルティ
- 日米条約で源泉税率の軽減(0〜10%など)が規定
- 受取側が米国居住者の場合は、条約適用の有無・適用手続の確認が必要
- 年金・社会保障
- 米国Social Security、日本の公的年金など、
国・種類ごとに課税関係・条約の扱いが違うので要確認
- 米国Social Security、日本の公的年金など、
👉 条約の条文を確認したうえで、
「日本側で課税されるか」「米国側で控除・免除されるか」を整理する必要があります。
4. 日本の確定申告での実務ポイント
(1) 申告書の添付・資料
- 在留カード、パスポートコピーなどで、在留状況の把握
- 給与の場合:源泉徴収票(日本・海外それぞれ)
- 米国からの利子・配当・不動産所得等がある場合
- ステートメント・年間取引報告書等(英文の場合は最低限項目を日本語メモ)
- 日本国外所得がある場合
- 外貨ベースの収入を円換算するレート(通達に沿ったTTM平均等)を明確に
(2) 外国所得の円換算
- 受取時点の為替レート・年平均レート、どちらを使うかの方針決め
- 課税期間を跨ぐ場合、為替差損益の取扱いに注意
(特に投資・給与の一時金など)
5. 外国税額控除(米国側での納税がある場合)
日本で全世界所得課税される場合、
米国で払った税金は「外国税額控除」の対象」になり得ます。
- 対象となる税金かどうか(所得税性のものか)
- どの所得に対応する税金か(給与・利子・配当・事業所得など)
- 日米租税条約上の優先課税権
- どちらの国が優先課税権を持つかで控除の可否・範囲が変わる
- 外国税額控除の計算は
- 所得区分ごとの「控除限度額」の計算が必要で、
実務的には「控除しきれない税額(繰越)」が出ることも
- 所得区分ごとの「控除限度額」の計算が必要で、
👉 申告前に
米国の納税額・対象所得・税種別の内訳をできるだけ詳細に確認しておくと楽です。
6. 社会保険・年金(税とは別だが、セットで相談されやすいポイント)
- 日米社会保障協定(Totalization Agreement)により
二重加入(日本の厚生年金+米国Social Security)を避ける仕組みあり - Certificate of Coverage(加入証明書)をどちらの国で取得しているかで、
どちらの制度が適用されるかが変わる - クライアントから「年金・社会保険もまとめて相談」されやすいので
税とは切り離しつつ、制度上の大枠だけ押さえておくと説明しやすいです。
7. 資産・投資(株式・投信・不動産 etc.)
アメリカ人クライアントは国外金融資産が多いケースが多いので、
日本居住者となった場合のキャピタルゲイン課税を確認します。
- 日本居住者 → 世界中の株式・投信等の売却益・配当も課税対象
- NISA等の制度を利用する場合の居住者条件
- 米国側では PFIC(Passive Foreign Investment Company)など、
日本側とは別にかなり厄介なルールがあるため、
米国税理士と連携しないと危険なパターンも多い(特に日本の投信)
👉 日本側では「日本の課税関係」を整理しつつ、
米国側の取扱いは現地CPA・EAへつなぐ前提で説明すると安全です。
8. 実務フロー上の注意点(税理士として)
- ヒアリングシートで最低限聞くべきこと
- 日本での滞在期間・在留資格・家族状況
- 米国市民/グリーンカードの有無
- 収入の種類・発生国(給与・事業・投資・年金など)
- 米国側での申告・納税状況(フォーム1040、海外税額、アドバイザー有無)
- 居住性・条約適用の結論を書面に残す
- 「居住者判定根拠」「条約条文の根拠」
- 日本と米国のどちらで最終調整するかを明確に
- 日本側で外国税額控除を積極的に使うか
- それとも米国側で Foreign Tax Credit/FEIE をメインにするか
(ここは米国側のアドバイザーと事前すり合わせが理想)
9. よくあるリスク・トラブルの芽
- 日本で居住者になっているのに
「国外所得は申告不要」と勘違いしている - 米国で申告しているから、日本に出さなくてよいと思っている
- 為替換算を適当にレートサイトでやっていて、年ごとに方法がバラバラ
- 条約を使えるのに、源泉税の軽減・還付を全く申請していない
- 米国側でFBARやFATCA報告を失念している(これは米国側の論点ですが、
クライアントから相談されやすい)
まとめ
アメリカ人の日本での税務申告は
- 日本の居住者判定(課税範囲の確定)
- 日米租税条約の適用判断(どの所得をどちらで課税するか)
- 外国税額控除などによる二重課税調整
- 米国側の申告義務・社会保障との関係を意識
を毎回セットで整理することが重要です。
- 「日本居住で日本法人勤務の米国人」
- 「米国本社から給与、出向で日本勤務」
- 「退職後、日本に戻ってきた元駐在」
このような事例が多数ご相談にこられます。
まとめ
まず上記のような情報を整理して、いつからさかのぼって申告すべきか?申告したあとにどうなるか?所得税以外には、住民税、健康保険等の影響がでてきます。
詳しくはご相談ください。

