コンビニ会計事務所2-1
AI・RPA・Z世代が変える税理士事務所の未来
AIやRPAが急速に広がるいま、税理士事務所の姿も大きく変わりつつあります。
かつては簿記を学んだ 学生アルバイトが主役だった入力作業は、AIが瞬時にこなし、RPAが夜通し動き続けるようになりました。
そこに加わるのは、簿記の知識よりもITスキルを持つZ世代の大学生たち。
そんな新しい事務所像を、「もし会計事務所がコンビニだったら?」というフィクションとして描いてみました。
未来の税理士事務所を想像しながら、楽しんでお読みいただければ幸いです。
以下の文章はすべてフィクションです
序章 コンビニのような会計事務所
「いらっしゃいませ。」――そう声が響くのは、街角のコンビニ……ではなく税理士事務所。
かつては簿記を学んだ学生アルバイトが伝票入力に追われていたが、今はAIやRPAが業務の中心を担う。
そして税理士は、まるで店長のように、AIや学生スタッフをまとめる役割へと変わっていった。
第1章 かつての税理士事務所
まだAIもRPAも存在しなかったころ。
税理士事務所の風景は、今とはまるで違っていた。
壁際にはキャビネットが並び、棚には伝票や帳簿が山のように積まれている。
机に向かうアルバイトの学生たちは、皆、簿記や会計を専攻している大学生だった。
「この仕訳は借方が売掛金で、貸方は売上でいいですか?」
隣の先輩に小声で尋ねる新米アルバイト。答えを聞きながら手書きの伝票をパソコンに打ち込んでいく。
当時の事務所では、学生アルバイトが“入力戦力”の中心だった。簿記の知識がなければ仕事ができない。
数字の意味を理解し、勘定科目の選択ができてこそ、初めて事務所に居場所を得られた。
だから、面接ではこう聞かれるのが常だった。
「簿記検定は何級持っていますか?」
「大学では会計を学んでいますか?」
アルバイトにとって、ここでの仕事は将来の就職活動にも役立つ実地訓練の場。
税理士にとっては、忙しい繁忙期を支える即戦力。お互いにとって“学びと労働の交換”のような関係だった。
紙の伝票を一枚ずつ読み取り、電卓で数字を確かめながら仕訳を入力し、最後に元帳を印刷して税理士に提出する。
事務所はカタカタとキーボードを打つ音と、紙をめくる音で一日中満ちていた。
それが、かつての税理士事務所の当たり前の光景だった。
第2章 ITネイティブ世代の台頭
時代は変わった。
税理士事務所にやってくる学生アルバイトの顔ぶれも、いつの間にか変わっていた。
「先生、AIが読み込んだ仕訳の中で、この部分だけ不自然なんですけど……」
新しく入った大学生のアルバイトが、画面を見ながらそう言った。
彼は簿記の知識をほとんど持たない。
けれど、Excelで関数を組み、Pythonで簡単なスクリプトを書き、さらにはクラウドサービスの連携設定を迷いなく操作してしまう。
そう、彼らはZ世代。
生まれたときからインターネットが身近にあり、スマートフォンやSNSに囲まれて育った世代だ。
紙の帳簿を見て仕訳を考えるよりも、アプリの画面を直感的に操作し、データを“扱う”ことに長けている。
彼らにとってITは「学んで身につけるもの」ではなく、「呼吸をするように自然に使うもの」なのだ。
Z世代の学生は、簿記や会計の専門用語には疎いかもしれない。
だが、AIが出力した結果を検証し、データを整形し、業務フローを効率化する“現場のエンジニア”のような役割を果たしている。
税理士は驚きを隠せなかった。
かつては簿記を学んだ学生だけが戦力だった事務所に、今は「会計の知識ゼロ」でもITスキルだけで十分役立つ人材がいる。
「なるほど……もう事務所の力は、簿記の専門性だけでは測れないんだ。」
Z世代の登場は、事務所にとっての転換点となった。
彼らはAIやRPAと共存しながら、新しい税理士事務所の姿を形づくっていくのである。
第3章 税理士=コンビニ店長
税理士はふと思う。
「私は、昔よりも“自分の手で仕訳をする”時間が減ったな……」
かつては、アルバイトが入力した仕訳を一つひとつ確認し、訂正し、決算書にまとめ上げるのが日常だった。
だが今はAIが瞬時に仕訳を生成し、RPAが処理を流し込み、クラウド会計が数字を自動で組み立ててくれる。
では、税理士の役割は何だろうか。
「まるでコンビニの店長のようだ」
そう感じる瞬間がある。
コンビニ店長は、自らレジに立って商品を打ち続けるわけではない。商品の仕入れを決め、棚の陳列を管理し、スタッフの配置や教育を考える。
そして何より、来店するお客様に安心してもらえる店づくりをするのが仕事だ。
税理士も同じだ。
AIがスタッフとなり、RPAが夜も休まず働き、Z世代の学生が柔軟に操作を支える。
その中で税理士は、「どの業務をAIに任せ、どこに人の判断を加えるか」を決める役割を担う。
さらに、顧客との関係構築も店長の大切な仕事だ。
お客様が「ここに来れば安心だ」と感じられるように、税理士は信頼とブランドを背負って立たなければならない。
AIや学生がどれだけ優秀でも、「最後にお客様が相談したい相手」は税理士自身。
だから税理士は店長として、現場を管理し、未来の方向性を決める存在であり続けるのだ。
この瞬間、税理士事務所はコンビニに似ている。
スタッフは多様で、仕事は24時間動き続ける。
しかし「店長がいるからこそ全体が回る」という構造は、昔も今も変わらないのである。
